解説にもあったが本を燃やす「焚書」の行為自体は、
世界的にそこまで珍しいものでもない。日本では木造文化の土壌があるのか、
欧米に比べれば、史実にはほとんど残っていないと言われる。
僕が華氏451で慧眼だと感じたのは「昇火士」という職業だった。
「昇火士」の職能は、かつての火消し隊「消防士」の反対で、本に火をつけて焼き切ることにある。
単純だが、あるべき職能の姿を反転させるだけで、全く別の主題が現れているのだ。
敷衍してSFを考えようとするなら、
例えば、「建築士」が建物をつくるなら、「建解士」が建物を安らかに解体したっていいんだろうし、
心の安定を保つ「心理士」がいるんなら、心を操り、ときには破滅させる産業スパイ「心壊士」が未来にはいるのかもしれない。
こうやって色んな設定を考えていくと、今ある職能の「当たり前」は、
実はある日突然反転してしまうような、案外危うい均衡のもとに成り立っているのかもしれない。