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【リプレイ系作品まとめあり】「ハリー・オーガスト, 15回目の人生 」レビューと深読み

リプレイ系の作品が読みたい。
「ハリー・オーガスト, 15回目の人生 」をお勧めします。

あらすじや深読み、類作もふまえてご紹介します。

 

基本情報


「ハリー・オーガスト 15回目の人生 」著者

本作の著者はクレア・ノースというイギリスの作家です。

ノース,クレア
1986年4月27日イギリス生まれ。ロンドン在住。16歳にして『ミラードリームス』(邦訳はソニー・マガジンズから)でデビュー。キャサリン・ウエブ名義でヤングアダルト向けファンタジー作品、ケイト・グリフィン名義で大人向けファンタジー作品を多数発表するなど、多彩な執筆活動を行っている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

「BOOK」データベースより

「ハリー・オーガスト 15回目の人生 」あらすじ

題名からもある程度想像はできるかと思いますが、ここであらすじについて見ていきましょう。

1919年に生まれたハリー・オーガストは、死んでも誕生時と同じ状況で、記憶を残したまま生まれ変わる体質を持っていた。彼は3回目の人生でその体質を受け入れ、11回目の人生で自分が世界の終わりをとめなければいけないことを知る。終焉の原因は、同じ体質を持つ科学者ヴィンセント・ランキス。彼はある野望を持って、記憶の蓄積を利用し、科学技術の進化を加速させていた。激動の20世紀、時を超えた対決の行方は?

「BOOK」データベースより)

何度も生まれ変わるカーラチャクラという体質をもった主人公ハリ−・オーガストが

自分と同じ転生体質を持つ、ヴィンセント・ランキスの暴走を止めるべく、

あらゆる職と、あらゆる人生を送りながら冒険をすすめる本作。

SFCファンならよだれものの設定でして、文句なくおもしろかったです。

僕が敢えて感想を述べずともネットには、素晴らしいレビューが溢れていますので、

ここでは僕が疑問に思ったことを少しだけ深く掘り下げたいと思います。 

深読み

オーガストという苗字

僕としてはまず主人公ハリー・オーガストの「オーガスト」という性が気になりました。

日本語でいうと「あら、八月さん」とうことになりますが、

そんな人はまあそうそうお目にかかれるものでもないでしょう。

何か意図があるのかもしれない、(ちなみに僕も八月生まれです。)と思い調べてみたところ

オーガスト「Augusut」の語源は、初代ローマ皇帝アウグストゥス「Augustus」に由来するそうです。

ラテン語で「神聖」を意味するこの名は、人名ではなく、実は称号なのだそう。

もう少し 続けますと、アウグストゥスの養父は、太陽暦=ユリウス暦を制定した

養父のユリウス・カエサルであるそうです。

彼はローマ歴を踏襲し、12か月各それぞれの月にローマ神話の神の名をつけました。

そのうちの7月を自分の名ユリウスにちなみJulius=つまりJulyとしたのです。

この偉大な養父カエサルを継いだアウグストゥスは、

カエサルを見習い?8月を「Augustus」としたことが、現在の「August」のもとになったのだそうです。

なんの話をしているのやらと言った感じですが、

このアウグストゥスという人物像を追っていくと、

本作のハリー・オーガストに投影されたある意味合いが浮かび上がってきました。

深読み:アウグストゥスとハリー・オーガスト

 このアウグストゥスは内戦まみれの当時のローマにおいて

パクス・ロマーナ(ローマによる平和)」と呼ばれる

40年以上も安定した統治を成し遂げた、いわばカリスマでした。

何がすごかったのかというと、その「嘘」の使い方であったそうです。

以下に彼のついた「嘘」を挙げてみましょう

・自らを「王」ではなく「第一人者」と呼び、専制を覆い隠しながら権力地盤を築く

建前に過ぎない権力を、元老院へ一時的に返還することで、感激した元老院により合法的プロセスのもと「絶対権力」を手にする。

病弱を装い、軍事や土木のハードな現場を盟友に任せ、自分は76歳まで長生きした。

ご覧の通りの大変な世渡り上手なのです。

 これは本作の主人公ハリー・オーガストにもそっくりそのまま当てはまります。

 自分の出生を自分と同じ輪廻体質のカーラチャクラに知られると

命を狙われる危険性があるため、彼は世間に自分がカーラチャクラであることを隠して生きていく。

人生ごとで様々な職につくが、スパイなんかもお手の物で、

正体を隠すためなら、自分が愛した女性の前でさえ他人のふりができる。

心の中でなにかが死んでしまったのだ。

これは宿敵ヴィンセントに自分の前世の妻を娶られたとき、

正体をばらすまいと必死で祝福の拍手を送り、周囲をあざむき通して

自分の正体を守ったハリーが、心の中で漏らした言葉です。

さらにはハリーの養父パトリックと、ハリーの煮え切らないぎこちない関係も、

養父のもとで育っているアウグストゥスに重なるものがあります。

自分を捨てずに育て上げた彼への感謝のしるしに父親とよぶ。いつか別の人生で。

幾度生まれ変わっても素直になれないが、心には秘めた感謝を宿しているぜ、

というこのハリーのこの告白に、実は養父育ちである僕自身もアンダーラインを引かずにはいられませんでした。

ハリーオーガストは、アウグストゥス帝に由来する。というのが僕の読みです。 

深読み:信じたい嘘

 人生を生き続けるということは、嘘をつき続けることでもあります。

なぜなら死ぬまでにひとつも嘘をつかない人間はいないからです。

そういった意味では本作は嘘についての物語であるともいえるのではないでしょうか。

生まれ変わるたびに、自分の身を守るために

たくみな嘘をつきつづけて生きていく主人公ハリー・オーガストと

遠い日のローマ皇帝アウグストゥス。

時代を超えたこのオーガストペアは嘘をつき通し、人生をうまく渡りあるいたといえないでしょうか。

二人は事実よりも確からしい嘘ー信じたい嘘の有効性を誰よりもわかっていたのです。

「信じたい嘘」といえば各国政界の動きで話題になったポスト真実「Post truth」という言葉があります。

 離脱派による「信じたい嘘」でも話題になったEUの離脱は記憶に新しいです。

イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票2016年6月23日でありましたが

なんと本書はイギリス人作家クレア・ノースによって書かれた、

初版は奇しくも2016年の8月(しっかりオーガスト)なのです。

出版当時若干27歳 の彼女が描いた想像力の彼岸ともいえる

SFファンタジーの裏テーマが当時のイギリスの社会情勢を映す「信じたい嘘」だったのです。

というまとめはいささか強引ではありそうなので、

最後にアウグストゥスの遺した名言を引用することにします。

「人生という喜劇で私は自分の役をうまく演じきれただろうか?」

嘘をつき続け、要領よく人生を生き続けているように見える

ハリー・オーガストにも同じことを尋ねてみたいものです。

【類作】おすすめしたいその他輪廻系作品

転生ものの作品というのは使い古されたテーマですが、

僕たちを魅了し続けるテーマのうちの一つです。

本書巻末の解説ではアメリカの作家ケン・グリムウッドの『リプレイ』を例に挙げていました。


こちらの小説のあらすじはとてもシンプルです。

ニューヨークの小さなラジオ局で、ニュース・ディレクターをしているジェフは、43歳の秋に死亡した。気がつくと学生寮にいて、どうやら18歳に逆戻りしたらしい。記憶と知識は元のまま、身体は25年前のもの。株も競馬も思いのまま、彼は大金持に。が、再び同日同時刻に死亡。気がつくと、また―。人生をもう一度やり直せたら、という窮極の夢を実現した男の、意外な、意外な人生。

「BOOK」データベースより

1987年に出版されたこちらの作品ですが、

2年前の1985年にはバック・トゥ・ザ・フューチャーがハリウッドで公開されていたので

そちらの影響も無いとは言い切れないでしょう。

どんどん遡りたくなってきましたので、続けますが、

日本では1965年〜1970年にかけて三島由紀夫最後の大作『豊饒の海』が出版されました。


こちらも輪廻を繰り返すある男を巡った物語で、

修辞に富んだ壮麗な三島由紀夫の文体が光る、輪廻小説の金字塔とも呼べる作品です。

三島由紀夫はこの全四巻に渡るこの大作の最終稿を書きあげたのちに、

切腹によって自ら命を絶っています。

僕は「春の雪」と「奔馬」を読み、妻夫木聡主演の「春の雪」の映画版も観ましたが、

「春の雪」の読後感は凄まじいもので、絶望と切なさで、一時仕事が捗らなくなった程でした。

この辺りのタイムトラベル形創作でお勧めしておきたいのがロバート・ハインラインです。


海外の長編SFランキングでしばしば1位になっている 「夏への扉」、

一人の男のタイムパラドクスを描いた「輪廻の蛇」は、イーサン・ホーク主演で映画にもなっています。 


特に輪廻の蛇は、はじめて小説を読んだときはあっけにとられ、映画も観たのですが、

なお緻密で、壮大なプロットに感嘆せざるを得ませんでした。

いずれおすすめの輪廻系創作のまとめでも書こうと思います。

著者その他の作品

クレア・ノースは日本では他に二冊の作品が翻訳されています。

僕はまだ未読ですが、ハリー・オーガストに通じる、特異で秀逸なファンタジー設定と、

旅、暴力、ミステリーの予感があらすじから漂ってきています。

こちらも読み終わったらそのうちレビューを書いていきます。

接触

私はケプラーと呼ばれる“ゴースト”―他人に触れると、その身体に乗り移ることができる。ある時、身体を借りていた女性が、地下鉄の人混みで狙撃された。私はとっさに近くの人へ飛び移り、やがて狙撃犯の身体を乗っ取った。この男は何者で、なぜ私を狙う?答えの鍵は、かつての宿主達にあるらしい。私は、長い長い人生を思い返しながら手がかりを辿ってゆく。全世界、あらゆる時代を舞台にした切なさ極まるSFサスペンス!

「BOOK」データベースより


ホープは突然現れる

私の名前はホープ・アーデン。人は私を記憶することができない。特性を生かし泥棒を生業とする私は、或るダイヤモンドを盗んだがために、完璧な人生の提供を謳うアプリ「パーフェクション」の開発元プロメテウス社に追われることに。逃走劇の最中、「記憶される人間」に戻る可能性を見出す私だが、すでに恐るべき計画の一部となっていることに気づく―。他者に記憶されない人生の意味とは。圧巻の世界幻想文学大賞受賞作。

「BOOK」データベースより


まとめ

如何だったでしょうか。

今回はハリー・オーガスト,15回目の人生のレビューを通して、

その魅力と類作などをご紹介してきました。


今回は以上です。

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